消費税の「輸出戻し税」が大企業の恩典になっているって本当?

20161205

自動車メーカー等の輸出企業は、「輸出戻し税」を利用して不当な利益を得ていると主張されることがあります。

本当でしょうか?

以下、この主張の妥当性について考えてみます。

 

(注)この「輸出戻し税」という奇妙な用語、個人的には使いたくないのですが、この論点に関連して一般に流布している用語のため、本記事に限って使用することにします。

 

消費税の仕組み

「輸出戻し税」について説明する前に、消費税の仕組みについて整理しましょう。

大手メーカーが下請け企業から50万円の部材を購入し、消費者に100万円で販売する例を考えてみます。

 

メーカーは、仕入代金50万円に消費税を加えた金額を下請け企業に支払います。

税率8%なら消費税は4万円ですので、税込で54万円です。

下請け企業は、受け取った消費税4万円を消費税として納付します(仕入れに係る消費税はないものと仮定)。

受け取ったのは54万円でも、うち4万円は消費税の「預り金」ですので、納付時期には消費税として納めることになります。

 

一方で、メーカーは下請け企業から仕入れた部材を加工して、消費者に税込108万円で販売します。

販売に際して、消費者から8万円を消費税として預ります。

しかし、メーカーは仕入れ時に下請け企業に対し4万円の消費税を支払っていますので、「8万円ー4万円=4万円」の消費税を納税します。

 

以上のように、「預かった消費税から支払った消費税を差し引いた純額を納付する」のが、消費税の基本です(仕入税額控除といいます)。

消費税は最終消費者が負担するのが原則であり、消費者の手に渡るまでの中間段階では、立替金預り金として処理されるわけです。

このケースでは、消費税8万円は消費者が購入代金とともに負担しており、それを下請け業者とメーカーが各々4万円ずつ納付する格好になっています。

 

このように消費税は、税金の負担者(担税者)と支払者(納税者)が異なることから、「間接税」と呼ばれます。

 

輸出の場合

以上が、国内取引の場合の消費税の課税関係ですが、海外取引になると事情は変わってきます。

海外への販売(輸出)の場合、日本の消費税は課されません。これを輸出免税といいます。

仮に上のメーカーが海外に製品を輸出した場合、消費税はかかりませんから、海外の消費者からは消費税抜きの100万円を受け取ります。

このように、売上に係る消費税を受け取りませんので、仕入にかかった消費税4万円を相殺することが出来ません。

このままでは、仕入れに係る消費税はメーカーが負担することになります。

 

しかし、前述のように、消費税は最終消費者が負担すべき税金ですので、メーカーが負担するのは不合理です。

そこで、輸出企業に対しては、仕入れ時に支払った消費税の還付が受けられることになっています。

これが俗に「輸出戻し税」といわれるものです。

上のケースでは、下請け企業に支払った消費税4万円について還付が受けられます。

 

「輸出戻し税」は大企業を優遇するもの?

この「輸出戻し税」が大企業を優遇するものと批判されることがあります。

本当でしょうか?

たとえば、

輸出大企業は消費税を納税するどころか、「輸出戻し税」という形の還付金を得ることが出来る。代表的な輸出大企業であるトヨタの場合、その額は年間数千億円にもなる。消費税率が上がればこの還付額が自動的に増えるので、トヨタなど経団連の会員企業は消費税率アップに賛成なのだ。

などと言われることがあります。

しかし、先の例で見たとおり、消費税の仕組みは、受け取った(預かった)消費税と支払った(立替えた)消費税の差額を納付するものであり、企業にとって損になるものでも得になるものでもありません。

トヨタの場合、輸出金額が膨大なため、この差額がマイナスとなり「輸出戻し税」が生じるわけですが、中間事業者は消費税を負担しないのですから、支払った消費税の還付を受けられるのは当然です。

そもそも、消費税還付を受けられるのは大企業だけではなく、輸出企業すべてに適用されています。大企業に対する優遇という根拠はありません。

 

また、次のような主張がされることもあります。

輸出戻し税の問題点は、大企業であるT社が、本当に下請け会社に108万円を支払っているのか?という点です。還付される8万円は、大企業が下請け企業に支払い、下請け企業は「消費税」として国に収めなければいけません。
しかし大企業では、往々にして下請け企業に負担を押しつけています。消費税分の8万円は、実は最初から下請け企業が自腹を切っている(T社は100万円しか部品代を払っていない)というケースが、非常に多いと言われています。もしそうであれば、輸出戻し税は大企業は労せずして儲かり、逆に中小企業は損をする、弱肉強食の制度に過ぎません。

大企業が優越的地位を利用して、本来108万円で仕入れるべきところ、消費税抜きの100万円で下請けから仕入れている。

そのうえ、消費税の計算上は108万円で仕入れたことにして、8万円分の還付を受けているケースがある。

だから「輸出戻し税」は大企業優遇の制度だ、という主張のようです。

 

しかし、100万円で仕入れておきながら、108万円で仕入れたことにして消費税還付を受けるというのは、そもそも脱税行為であり、それと「輸出戻し税」の制度とは別問題です。

消費税還付を利用した脱税事件が後をたたないことは、以前の記事でも紹介しました。

「平成27事務年度 法人税等の調査事績の概要」のポイント
毎年国税庁から公表されている税務調査実績。平成27事務年度の集計結果が公表されました。平成27事務年度 法人税等の調査事績の概要今回は、公表内容の要点をご紹介しま...

 

このような不正還付事案に対しては、厳しい対処が必要であることは当然ですが、このような脱税が生じるから「輸出戻し税」が不当だということにはなりません。仕入税額控除を悪用した不正は、輸出企業に限らず行われています。

 

また、 大企業が下請け企業に圧力をかけて、消費税の転嫁を抑止しているという点。確かに大きな問題ですが、これは消費税の問題というより、下請法や独禁法などの不公正取引規制で取り締まるべき問題です。

 

おわりに

以上、誤解の多い「輸出戻し税」について解説しました。

先に紹介したようなミスリーディングな議論が生じる背景には、消費税の仕組みが広く理解されていないことがあるのだと思います。

・消費税は最終消費者が負担するものであること

・事業者は預かった消費税から支払った消費税を差し引いた残りを納付すること
(したがって、消費税は負担していないこと)

・輸出取引には消費税がかからないため、支払った消費税が還付されること

を理解していれば、誤った主張に惑わされることはないでしょう。

 

この記事が皆さんの消費税の理解に役立てばうれしいです。

 

今日はこんなところで。
それではまた。

 

あとがき

■Editor’s Note

先週末は、息子が通うサイエンス教室へ付き添い。
ドローンを飛ばす体験教室ということで、多くの生徒さんで賑わっていました。 

■Today’s article

 今日はお休みします。


東京・世田谷区の藤村総合会計事務所

中小零細企業のみなさまに、決算・申告、資金調達、資金繰り改善など豊富なサービスをご提供いたします。

 

 【業務メニュー】













無料冊子プレゼント

中小企業の経営者ならぜひ知っておきたい税務のポイントをまとめた無料冊子(PDF)を、下記からダウンロードできます。

会社経営にまつわる税務の基本をまとめた240頁超の冊子です。

いまなら、さらなる特典もついています。

ぜひダウンロードのうえ、ご活用下さい!


ABOUTこの記事をかいた人

東京都世田谷区で開業している公認会計士・税理士です。大手監査法人、M&Aコンサル、税理士法人を経て2016年9月に独立開業しました。妻と息子の3人暮らし。海外サッカーと囲碁が大好き。英語、数学を勉強中。 ブログでは、税務・会計の話題や仕事術、日々の出来事などを気ままに綴ります。