
今年読んだ本ベスト3。
最終回は、岩井克人先生の『経済学の宇宙』です。
はじめに
岩井先生の著書に初めて出会ったのはおよそ10年前。
岩井先生の意欲作、『ヴェニスの商人の資本論』でした。
シャークスピアの『ヴェニスの商人』が、遠隔地貿易に従事するアントニオとユダヤ人の高利貸シャイロック、その周囲の女性たちをめぐるドラマであることはよく知られています。
このシェークスピアの名作を、資本主義論の観点から読み解くという意欲的な試みに、軽い衝撃を受けました。
それ以来、岩井先生の著作には注目してきたのですが、昨年、岩井先生の一般向け著作の集大成として出版されたのが、本書『経済学の宇宙』です。
『経済学の宇宙』の2つの読み方
本書の楽しみ方は2通りあります。
ひとつは、経済学者・岩井克人の個人史・研究史を辿る「読み物」として楽しむことです。
本書では、東京の中流家庭に生をうけた岩井先生が、宇沢弘文、小宮隆太郎、根岸隆といった錚々たる先輩学者の指導のもと経済学者として成長していくさまや、米国の大学での栄光と挫折の経緯が詳らかにされています。
私のような古くからの「岩井ファン」にとっては、経済学の分野に「岩井経済学」ともいうべき独創的な一分野を開拓した岩井先生の個人史を知ることは、なによりも面白いものです。
また、「主流派」経済学である数理経済学から学者としての一歩を踏み出したものの、その主流派経済学に疑問を持ち、不均衡動学、貨幣論、法人論、信任論へと研究テーマを移していった岩井先生の思想的変遷をたどることによって、岩井先生の業績の一端を知ることが出来ます。いわば「岩井理論」の入門書としての読み方も可能です。
もうひとつの読み方は、「経済学史」を学ぶ教科書としての読み方です。
本書では、どのようにして経済学の学説・学派(新古典派、ケインズ学派)が誕生し、どのような理由で理論が進化していったのか、その動的なプロセスについて社会的な背景を含めて詳述されています。
普通の教科書では、それぞれの学派が前提としている事項(価格の下方硬直性や市場の不完全性など)やその理論的帰結(大きな政府 or 小さな政府など)を説明して終わりというところですが、本書では、理論が成立する時代背景や哲学的根拠にまで遡って、各々の学説の生い立ちと学会での受容のプロセスが明らかにされます。
経済学に関心はあるが、理論構成が抽象的すぎてついていけないという向きには、本書を読むことによって、それぞれの学説にはそれが生まれる歴史的背景や土壌がたしかに存在していたのだということが理解でき、経済学説に対する理解の一助とすることが出来るでしょう。
おわりに
以上、今年読んだ本ベスト3を紹介してきました。
皆さんの読書の参考になれば幸いです。
来年も良い本に出会えるといいですね。
今日はこんなところで。
それではまた。
あとがき
■Editor’s Note
昨日まで息子をつれて実家に帰省。
妹夫婦も合流し、賑やかに過ごしました。
今日明日は自宅の大掃除を敢行。
■Today’s article
Shinzo Abe at Pearl Harbor: ‘Rest in Peace, Precious Souls of the Fallen’
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